03.恵吾と美咲の嘘。そして樹生

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ブラウスのボタンを外す指の感触を、布を通して肌が感じる度に、鼓動の速さはワンテンポ上がる気がした。 ぎこちない熱い手が肩や背中を這うにつれ、自分の身体が自分のものではないような感覚に囚われた。 柔らかい舌が胸の中心を舐めて吸い付くと、自分では制御できない蜜が奥ににじみ出ていくのが分かってしまう。 なされるがままに、私は誘導されながら身体を開いて、目の前にある男の熱さに翻弄された。 こんな時どうするべきなのかも分からなくて、私は初めて触れた自分のものではない温もりに爪を立てて、刺激に応える。 「美咲」 顔を歪めて涙を流す私の目元に、温かい指が添えられる。 「大丈夫だから、何もかも俺に委ねろ」 その声に小さく頷いて、私は静かに目を閉じた。 無意識に漏れてしまう自分の声が意識を通り越して、空から聞こえてくるような気がする。 「た…つき…」 そう呼んだ私の声も一緒に空に飛んでいく気がした。
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