04.樹生と美咲の罪と嘘。そして償い

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「良かったじゃないか。裁判記録を見る限り、恵美が妊娠した頃には、あの人の離婚は成立してる。  もしかしたら、俺たちの嘘は最初から必要なかったんじゃないか?」 樹生は私と目を合わさず、靴を履く。その態度がとても寂しく感じてしまうのは5年という年月を一緒に過ごしてきたからだろうか。 「……でも私が嘘をついたのは、恵吾だけが理由じゃない」 樹生とは好き合えない。樹生のことは兄だと思っている。それでも、私は樹生のことを大切にしたかった。 靴を履いていた樹生は私の言葉に一瞬動きを止め、靴を履き終えた後で私に向き直り優しく笑って見せた。 その表情はよく知っている大人びたあの笑顔だった。 「ああ、分かってる。でも今、美咲と恵美が一番幸せになるためには、もう嘘は必要ないだろう?  嘘をつかずに、事実とちゃんと向き合って、何が一番の選択かを考えられる」 樹生は私の頭に手を伸ばして、いつものようにポンポンと頭を叩くと、くしゃくしゃっと髪を優しく撫でた。 その行為がいつもよりも長くて、樹生はもうこうやって私の頭を撫でたりすることをしないつもりなのだと、なんとなく感じた。 「俺はずっと親父が犯した罪を美咲に償いたかった。親父のせいで、美咲のお袋さんに無理をさせて、早死までさせてしまった。  身寄りが何もない美咲を一人ぼっちにはさせたくなった。それに恵美も同じ境遇を味あわせたくなかったんだ」 樹生の手が私から離れる。 だけど樹生の手の温もりを失っても、温かさはじんわりと頭から全身に流れていった。
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