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リビングに戻りドアを開けると、恵吾は今まで見せた中でも一番不安そうな顔をして待ち構えていた。
私は静かにリビングの中へと入り、恵吾の前に腰を下ろす。
「樹生さんは?」
問いかけてきた恵吾に「出かけてくるって」と答えると、「そう」と歯痒そうに恵吾は返事をした。
「もしかして、美咲と樹生さんは……」と言いかけた恵吾は私の表情を見て、そのままその先の台詞を封じてくれた。
私はどんな顔をしてしまったんだろう。
怖い顔だろうか。泣きたい顔だろうか。嬉しい顔だろうか。私自身、考えることもしたくない。
恵吾は崩れていた姿勢を改めて正すと、私に向き直った。
「美咲に嘘をつかせたのは僕のせいだよね。罪を犯させたから、僕が美咲を追いつめた。
親のことに拘ったり、樹生さんの存在を疑ったりしたから、余計に拗らせた。
でも、もう嘘はやめよう?」
人は罪を犯すと、嘘をつきたくなってしまう。守るため、逃げるため、庇うため。
私達も罪を犯した。
でも進む先の未来を捻じ曲げてしまったのは嘘をついたせいかもしれない。
そして相手のためにつく嘘だとしても、自分の本音を押し殺してついてしまった嘘は、その罪と嘘から逃れられなくさせる。
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