プロローグ

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2015年12月25日。 一面に広がる純白のジュータン。 ショーウィンドーから漏れるオレンジ色の光を反射して、温かな光で街中を包む。 手を繋いで、ウキウキとした足取りのカップル。 腕を組んで微笑み合う夫婦。 子供を真ん中に挟んで、夕飯の話をする家族。 みんな幸せそうに笑っている。   だけど、足元を見ると踏みにじられた白いジュータンからは灰色の世界が見える。 まるで、この世界は紛い物とでも言うように。 そう、この世界は冷たくて、寒くて、息をするのもままならない。 私にとったら…。 行く宛もなくただ呆然と歩く。 人混みから逃げたかった。 裏道を見つけると私は左手の薬指から抜いた指輪を、思いっきり遠くに投げた。 銀世界の中でも、その輝きを主張するあの指輪は一体いくらするのだろう。 その輝きがいまは憎らしい。 私はあんなものが、欲しかったわけじゃないのに。
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