一話

10/27
前へ
/163ページ
次へ
「ははっ、冗談はやめてくれよ」 「冗談ではない。それに、これはお祖父様の意向でもある」  それを言われると俺も困ってしまう。じいちゃんには世話になってるし、尊敬もしている。なによりも俺はじいちゃんが好きだから、迷惑をかけたくなかった。  確かに一般科へと移ったとき、少し残念そうな顔をしていたな。あのときは自分のことしか考えられなかったけど、俺だってじいちゃんを悲しませたいわけじゃないんだ。 「じゃあコミュニティの件は? 作った覚えはないんだが……」 「薫に言われて作っておいたぞ! ほら、メンバー証だ!」  そう言って、姉さんは俺にカードを渡してきた。それは、今朝から見当たらなかった俺の学生証。背景の色が一般科の緑色から、軍事科の黄色に変わっていた。 【コミュニティ:スレイプニル】  プロフィールの中にあるコミュニティの欄にそう書いてある。そしてリーダーも、薫が言っていた通り俺になっている。  学生証に触れ、コンソールを出す。暗証番号を入力し、コミュニティの詳細を出した。 「おい、でもメンバーが薫しかいねーぞ……」 「これから増やしていこうね! 兄さん!」 「腕にしがみつくなよ暑苦しい!」 「俺様をノケモノにして楽しそうに会話してんじゃねーぞ!」  今まで黙っていたヒッグス。だが、額に浮き上がった血管が激怒を物語っていた。 「まあそういうことなんですよヒッグス先輩。申し訳ありません」 「別に謝る必要はねえだろ。これからキャプチャーバトルを申請すりゃいいだけだ」  額に浮き上がる血管はそのままだが、妙に冷静な口調だった。 「スレイプニルにキャプチャーバトルで勝ち、僕を奪取すると」 「まだ新参のチームなんざ、ランキングバトルで勝っても意味ねーしな。こっちのランキングが上がらないような無駄な勝負はしねーよ。先生、承認してくれ」 「いいだろう、学生証を出せ。当然、語もな」 「俺はまだやるとは――」 「メンバーが二人だからって、舐めない方がいいですよ?」  この流れを切ろうとしたのに、なぜ薫は挑発しているのか。 「なんでお前はそんなに強気なんだよ! 二人でなんともならない競技でも出たらどうすんだよ!」
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加