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五百年以上前に開発されたトラフィックギフトと呼ばれる装飾具を装備することで、九個ある職種(ロール)のどれかを選択し、戦闘を有利に進めるための力。それがトランスフィクサーだ。
職種には自身の身体能力、魔法能力を高める効果がある。エンハンスという必殺技も職種ごとや個人ごとによってに異なり、より一層その力を引き出してくれる。しかしエンハンスはいつでも使えるわけではなく、トランスフィクサー使用中にエンハンスゲージが上昇、ゲージが一本溜まるとエンハンスを使える。
まあそのエンハンスゲージも個々に差があり、ディボーター全体での平均は五本と言われていた。
俺は二本しかゲージを持たないが、別にコンプレックスというほどでもない。諦め半分、受け止め半分だ。
踊り場に降りた俺たちは、そのまま階下へと向かおうとした。だが、妙な人だかりにそれを阻まれてしまった。
「おい京介、なんだよこの人だかり」
「そんなの俺が聞きたいくらいだぜ」
思うように前に進めない。が、イライラしているわけではない。俺は怒ることをやめたんだ。誰がなにをしようと怒らないし、そんな無駄なことに労力を裂こうとも思わない。
そう、決めたんだ。
「仕方ない、向こうの階段から行くか」
「だな――」
「兄さん! にーさーん!」
先の方にある別の階段に行こうとした時、あいつの声が聞こえた。
辺りを見渡すと、妙な人混みの中から手を振っているではないか。しかも、その人混みをかき分けて、こちらへと走ってくる。その人物は、俺と京介の前で立ち止まった。
「あの人混みはお前のせいか、薫」
「僕は人混みって苦手なんだけど、なんでかみんな集まってきちゃうんだよね」
薫は子供っぽい笑みを浮かべ、小さく舌を出した。
俺と薫は年齢的に二つ離れている。感情的でイタズラが好きで、それでいて社交的でイケメン。それが俺の弟である鳴神薫という人物だった。
中等部の頃から麒麟児と称され、世界的に注目されていた弟。十一本のエンハンスゲージを持ち、中等部トランスフィクサーの模擬戦でも常にエースだった。頭もよくてなんでも器用にこなす薫は、どの職種であっても対応できる万能さも備えていた。
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