一話

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 かたや俺はパッとしない成績、パッとしない顔で、運動だって薫には勝てない。戦闘力だって弟以下で、今全力で戦ったところでこいつには勝てる気がしない。  俺が一般科に移ったのには、そういった理由もある。 「俺も人混みが苦手だ。だからさっさと散らせてくれ」 「じゃあ、兄さんのお願いを聞いたら、兄さんは僕のお願いも聞いてくれる?」 「あんまり聞きたくないけど、お前のお願いってなに?」 「僕と勝負してよ」  喧騒の中でする会話だ、当然少しくらいは声を張る。そのため、周りにもしっかりと聞かれてしまっていた。  たくさんの生徒たちの視線が肌に刺さる。その感覚がやけに気持ち悪い。昔から俺が注目される状況は、俺にとってマイナスの要素しか含まなかった。  本当に鳴神家の者なのか。あれでは面汚しではないか。そんな記憶しかない。 「おいおい、俺がお前に勝てるとでも思ってんのか? 無理無理。ただの一般科の生徒が、ガチ軍事科に勝てるわけないだろーが」 「僕は一年、兄さんは三年。なんとかなるんじゃないかな?」  一度俺を見た薫は、俺の意思を聞く前に一人で歩き出した。ついて来いってことか。 「マジで行くのか? マジでやる気なのか? お前弱いのに?」 「あーもううるせーな黙ってろよ。あいつはな、いつもいつも、顔を合わせる度に俺と戦いたがってたんだ。同じ学校になっちまったんだ、一回くらいはいいかって、そう思う」 「惨敗でもすればいいって、そうも思ってるだろ」 「さすが京介、よくわかってるじゃねーか」  薫は手の甲で野次馬を追い払いながら進んでいく。雑だが、俺の『お願い』は聞いてくれてるんだな。一応程度だけど。  一つため息を吐き、俺も後を追った。  大きな大きな踊り場の端、いくつも並ぶ模擬訓練施設【ソティルケージ】の一つに入っていく薫。そして、俺もその中に入った。  本来は戦場にて生身で行うのだが、学生の俺たちはこのケージ内でしか、トラフィックギフトの使用を認められていない。ケージ内で死ぬことはなく、個々の体力値がゼロになるとトラフィックギフトがセーフティモードに入り、それ以上ダメージを受けなくなる。団体で行うコミュニティストラグルならば、体力がゼロになったところでケージからはじき出される。仕組みは授業でならったが、よく覚えていない。
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