一話

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「いざ」 「尋常に」 「「勝負!」」  薫は間違いなく全力で来る。ということはつまり、ロールセレクトは『ラウンダー』だ。エンハンスは基本的に、全てのスピードを超高速にする能力。攻撃力を極大にするストライカーとはほぼ真逆に位置していた。  薫の素早い右ストレートを左手で叩き落とす。その際、俺も後方へとバックステップし、攻撃を見切りやすくした。  蹴りが飛んでくるも、俺はすぐに着地し、サイドステップで次を受けないように。避けたからといってすぐ攻めてもいいことはない。攻撃は打ったら戻し、打ったら戻す。その速度を上げるのは当然で、迂闊に攻撃してはカウンターをもらう可能性が高くなるのだ  ハイキックの勢いを殺すことなく、今度は回し蹴りが襲いかかる。 「回し蹴りは」  ふくらはぎを肘鉄で受け止めてやる。 「打つもんじゃねーよ」  肘を伸ばし、掌底を打ち出した。 「ぐっ……!」  体勢を崩した薫だが、素早く俺と距離を取った。と、思ったのもつかの間。 「下からに弱い」  身体を沈め、アッパーを繰り出してきた。昔よりも動きにキレがある。そしてなによりも速い。運動能力も判断能力も、俺が知っている薫とは違う。  両手をクロスさせてアッパーを受け止めたが、咄嗟のことだったので上手く防御できなかった。おぼつかない足取りのまま、今度は俺が距離を取る羽目になった。 「まだまだ!」  乱打戦に持ち込まれてしまった。  攻撃の速度は上がる一方で、魔法で身体強化しているというのがすぐにわかった。  薫は全ての能力が高い。通常戦闘は当たり前として、武器の扱い、指揮官としての器、魔法の才能。俺にはないものを、たくさん持っている。  本来、人間にという種族には魔法を扱う力はなかった。トラフィックギフトを使って初めて、魔法という異常な力を行使できる。魔法はトランスフィクサーを使えばどのロールでも行使できる。が、基本的に魔法を使えるのは、魔法攻撃を主体とする『ブラスター』や回復や補助を主体とする『ヒーラー』、魔法力を味方に分け与える『フォーサー』など。魔法の素質が高い人ならば索敵能力に長けた『コンダクター』などの他の職種でも使える。ラウンダーでブラスター並に魔法が使える人間というのもレアケースだ。
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