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足音が遠退き一人になった室内で
俺は窓辺へと歩み寄り
締め切られた窓を開け放った
星なんか見えない筈の都会の夜空に
たった一つだけ星が瞬いていた
小さな光が大きく光って見えて
無性に眩しさを感じて
俺は目を伏せながら溜息を吐き出した
“蒼志様にとって
永遠子お嬢様は『何』ですか?”
先刻、問われた言葉が不意に蘇り
胸の中の靄を濃くしていく
俺にとっての永遠子はーーー…
“…蒼ちゃん…大好き……”
その愛おしい声は…
掻き消してしまいたいのに
簡単には消えてくれなくて…
胸の奥が締め付けられたように痛くなり
この痛みに名前を付ける事を躊躇った
痛みがそのまま熱さに変わり
俺の中を焦がしていくようだ…
“ずっと傍にいる存在だから
ずっと一緒に過ごしてきた幼馴染だから”
“だから、そう思うだけで
きっと何かの間違いに決まってる”
ーーーそれなのに…
“常に傍らに咲いていて
大切に愛でていた小さな花を
この手で手折ってしまいたい”
“手折った花を己の懐の奥深くに隠して
俺だけの為に咲いていて欲しい”
ーーー“誰にも奪われないように…”
俺の為に涙を流す永遠子を見た瞬間
そんな身勝手な衝動に駆られたんだ
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