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多分私は大切な物を沢山無くしたのだろう――
彼は、愛おしそうに私の胸に顔を埋めている。煌々と照らされた灯りの下で、彼の背中が見える。
腰の両脇に私の伸びた脚を見つけ、不思議な気持ちになった。彼の頭を抱きしめる。
つむじに混じる短い白い髪を眺め、頬ずりをした。
コロンの香りと、汗の香り……彼の年齢が鼻腔を抜けた。
退屈だったけれど、平穏だったあの時はもう戻らないのだと思う。
それでも構わない。
大袈裟なのかも知れないけれど、世界中から非難されてもどうだって良い。
頭を抱える私の腕からすり抜けた彼の顔が、哀し気に私を見つめた。
私は顔を横に振り微笑んで見せる。
安心した様に、彼が頷いて私を抱きしめた。
優しく彼が私を貫いて、快感が身体の中心から振幅する様に広がる。
真っ白な思考の片隅で、彼が私の名前を何度も呼んでいた。
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