六章

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つまらなそうに後藤さんが呟く。 「じゃあ、私は無理言ったわけですねぇ」 私の言葉に、後藤さんが苦笑いする。 「君は特別……僕の立場にも、金にも興味がない。変な子だよね」 「普通ですよ?後藤さんが、どんなとこに住んでるのかちょっとだけ興味あったし」 「興味……ね。もっと僕に興味持ってくれたら嬉しいけどね」 音もしないで、エレベーターの扉が開く。ボタンは数字の一番上だ。 最上階には、二つしか部屋が無いみたいだ。右側の突き当たりへ後藤さんが歩き出す。 「どうぞ、お姫さま」 笑いながら開けられたドア。真っ白な石の玄関は、私の部屋と同じぐらい広い。 「お邪魔します」 土間の隅に靴を揃える私を、嬉しそうに後藤さんが見ていた。あっ!とか言いながら、靴箱からスリッパを並べてくれる。 どうやら、本当に誰も呼んでいないみたいだ。自分の家なのに、スリッパを探すのだから本当だろう。 長い廊下の先にある扉を開けたら、見た事もない光景だった。大きな窓が並んで、夜景が広がっている。 高い塔が目の前で、チカチカと点滅と色を変えながら真っ直ぐに伸びている。 「とりあえず、座ってよ」 「はい……」
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