六章

53/58
前へ
/414ページ
次へ
横に五人は座れそうなふかふかのソファー。真っ白の皮で、柔らかくて気持ち良い。 大きな低いガラスのテーブルに、似つかわしくないコンビニの袋ががさっと置かれた。 「後藤さん買いすぎ。もったいないよ」 「あーそっか……そうだよねぇ」 ペットボトルだけで四本。甘い炭酸に100%のジュースにコーラにフルーツオーレ。 「どれにする?」 「後藤さんは?」 「んー。ビール飲むから良いや」 随分離れたキッチンへ後藤さんが向かう。退屈なので、バッグをソファーに置いたままでそっと背後を歩く。 「なーんにも入ってないねぇ」 「うわっ!びっくりするなぁ……」 私の家の倍はありそうな冷蔵庫には、ビールやジュースやワインだけが並んでいた。 大きなキッチンなんて、使った形跡もない。 「寝に帰るだけだしなぁ」 「でも、綺麗にしてるねぇ。なんか、もっとこう……」 「散らかってると思ってた?」 「うん。男の人の部屋なんて見たことないですけどね」 後藤さんはグラスを二つ手に持ったままで、嬉しそうに笑う。ああ、なるほど……この人は、私の〈初めて〉が嬉しいのか……
/414ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4256人が本棚に入れています
本棚に追加