六章

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「変な人ですよね。後藤さん」 「よく言われる……」 「自分で言うんだね」 広いリビング。大きな大きなソファーの向かいに座る。 苦笑いして、飲みかけのワインのコルクをぽんと外す。白のワインをガラスのコップにドボドボ注いで美味しそうに飲み干す。 「遥ちゃんはさ……なんか特別なんだよね」 「ただの女子大生ですよ。特に綺麗じゃないし……自分の事はよくわかってますから」 「わかってないだけだよ」 「えっ?」 「あんな事までして、振り向かせたかったぐらい特別なんだよね。僕にとっては」 「気の所為ですよ。そんなの……」 後藤さんはソファーに深く背中を凭れさせて、天井を見つめる。 「気の所為なら気が楽なのになぁ……」 何でも持っているIT業界の風雲児。それなのに部屋の中みたいに空っぽに見える。 私にとってこの人は何なのだろうか?成り行きだけれど、重荷から解放してくれた事は間違いない。 変な気分だ。ぎゅっと抱きしめてやりたい衝動に駆られる。ソファーから立ち上がろうとしたら、胸元で星が揺れた。 気がつけば、後藤さんの背後に回り肩から手を回して頭に頬を寄せていた。
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