第1章

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香澄がニコニコと笑い私に声を掛ける。 すとんと横に座りながら「ありがと香澄」と告げて頭を撫でた。 可愛い妹だ。今でも、時々私の部屋へ枕を抱えてやってくる。 告白された話やら、友達と上手くゆかないだとか、そんな事をお喋りして眠ったりもする。 私が言うのもなんなのだけれど、香澄はふんわりとしていて私より可愛いのだ。 「お帰り。お父さん」 「ただいま、遥。お誕生日おめでとう」 穏やかな表情でお父さんが微笑んだ。 朝も早い、夜も遅くに帰ってくる。疲れていても不機嫌な顔を見せない優しい父親なのだ。 誕生日の食卓は、ほのぼのとして平穏だった。 最後にケーキを切り分けて、お母さん秘蔵のフォションの紅茶と一緒に皆で食べる。 「受験勉強は、捗ってる?」 あー痛いところを突かれた感じだ。 お母さんが「せっかくの、お誕生日なんだから」と誤魔化してくれる。 模試の結果判定は、芳しく無かった。どうしても苦手な科目が在るのだ。 数学が苦手になったのは中学二年の頃からだ。理由は、誰にも話していない。 大学を出たばかりの若い先生だった。 明るくて、人気者でバスケット部のコーチもしていた。
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