第1章

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夏休みの部活動は、体育館を持ち回りで使う為に週に二度だけ練習があった。 県大会どころか地区の予選でも早々に敗退する弱小チーム。 夏休みに入って、三年生は部活を引退。五人だけの二年生から、キャプテンに指名されたのは私だった。 『じゃあ、キャプテンは先生と今後の打ち合わせだ』 チームのみんなを見送って、体育館には先生と私だけだった。 鍵を締めるから待て、と告げられた。 ボールやら跳び箱やらマットが仕舞ってある倉庫の前で、体操座りをして先生が順番に鍵を締める姿をぼんやりと見ていた。 床から臭うワックスと、締め切った体育館のむっとする空気を憶えている。 先生が私に向かって歩いてきた。何故だかとても無表情で、別の人みたいに感じた。 急に腕を掴まれ、体育倉庫へ引き摺られた。 マットへ押し倒されて恐怖で身体が硬直した。 ユニフォームの下から先生の手が胸に差し込まれ、無理矢理に唇を奪われる。 勿論、初めての口づけで、唇をざらついた舌が割り込んだ時、吐きそうになった。 漸く声が出る。先生の顔を両手で思い切り引っ掻いて叫んだ。 泣き叫ぶ私の前で、我に返った先生が床に頭を擦り付け『許してくれ!こんな事をするつもりじゃ――』と叫んでいた。 兎に角、逃げ出したかった。荷物をスポーツバッグへ詰め込んで、ユニフォームのままで自転車を漕ぎ家に辿り着いた。 もしも、お母さんが家に居たら先生の事を話しただろう。 シャワーを浴びて、何度も唇と触られた胸を洗い流した。 許せないと思った、けれどそんな事を誰かに話すのも恥ずかしかった。
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