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「呼び出してごめんね」
伊藤君がはにかみながら私に言う。瑠香は、私を音楽室へ押し込んで、さっさと扉を閉めて廊下に出た。
さっきまで使われていたのだろう音楽室は、窓も締め切ってあるけれど適度に冷房が効いたままだった。
「うん……」
伊藤君は照れくさそうに、背中に隠した手に持った包みを私の目の前に持ち上げる。
「これ渡したかっただけなんだけどさ……声掛けるタイミングが無くて。遅くなったけど、誕生日おめでとう」
「ありがとう……伊藤君」
小さなピンクの包み。ラッピングのリボンを潰さないように鞄に入れていたのがわかる。
指先を伸ばし、そっと受け取ると伊藤君が嬉しそうに笑った。
何を話して良いのか、さっぱりわからない。多分、彼の事は嫌いでは無いのだと思う。
それは、周りから伊藤君が私に好意を持っている事を聞かされていたからなのかも知れない。
「あのさ斉藤。土曜日とか暇?あっ、そのさ……図書館とかで一緒に勉強とか……駄目かな?」
懇願するみたいに真っすぐに見つめられると、断る事も出来なかった。
黙って頷くと、目の前で小さくガッツポーズする。思わず笑ってしまう。
「でも、伊藤君の邪魔になりそうだよ。私」
「そんな事、絶対無いって!」
むきになって首を振る伊藤君が可笑しかった。
ラインのIDを教えて、其れから少しだけ話をした。
まだ志望校が絞れていない事や苦手な数学の事。瑠香のお節介に少しだけ感謝した。
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