第1章

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 ネットでの意見はほぼ、政府発表を疑ってかかっていた。 宇宙船がいるのは間違いない事実だ。  そして、彼らが望むものを得なければ帰らない。 それもまた、本当の事に違いない。  ……では何を疑うのか。 これは、大きな政府のペテンだというのだ。  宇宙船の目的は、相当数の人間を連れ帰る事だ。そして、それは例えば公募したところで、けして立候補など考え難い。それは当たり前だろう。  私だって絶対に立候補なんかしない。 たとえば1億円がもらえるとしても。  そのお金を持って宇宙に連れて行かれたら、何にもならない。  もしかしたら、そのお金を家族のために遺したいという奇特な人が立候補するかもしれない。  でも、それだって彼らの望む20億なんて数には決して至らないはずだし、第一その数の人間に1億円づつ払っていったら、あっという間に国庫が底をつく。 ……だから政府は考えたのだと、ネット内では、まことしやかに噂が巡る。  宇宙人と一緒に行けば助かるけれど、行かなければ助からないとデマを流せばいい。  自分が助かりたいと思う者は立候補する。20億には足らないかもしれないけれど、「宇宙人に連れ去られたい人!」と言って公募をかけるよりもはるかに大勢集まるに違いない。  ……彼らが連れ去られてから。  残った者たちにはこういえば言いのだ。 政府の必死の交渉により、全地球市民の虐殺は免れ得た。  私たちは残った地球を守って行こう、と。
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