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司は再び問う事はしなかった。
何となく誰かが……それは雅であるかもしれないし、父であるかもしれない、今は見知らぬ人かもしれない者……その誰かが導いてくれる気がしたからだ。
司は体が軽く、暖かくなっていくのを感じていた。
このように一見、何も得られなかったように見える司の滞在生活は終わる。
「おん まいたれいや そわか」
ただ、最後に真言が聞こえて、その真言は司の心に刻み込まれたのである。
「お世話になりました 」
二人の修行は終わる。
下山中に、雅は司に『天狗』から貰った「ドングリの輪」を手渡す。
「なあに、これ?」
「『天狗』が司にあげるってさ」
「天狗? 雅君、天狗に会ったの?
ずるいっ!
私も会いたかったよ~っ!」
「ふふふ、その内、会えるさ」
司は手にした輪を手首に嵌める。
すると一瞬、「ぱっ」と光った。
そしてドングリは黒く変色し、ぴったりと司の手首に納まった。まるで司のためにオーダーメイドしたかのように。
「あれ? このドングリ、石になっているわ。しゃれた贈りものね」
司は気に入ったらしく、にっこりとほほ笑むと森に向かい手を振ったのであった。
「雅君はどうだった?」
「僕はこれさ」
雅は襟元を開き、ネックレスを見せた。
そのペンダントトップには琥珀に封じ込められた「大白蛇の鱗」がきらりと光っている。光明が施してくれたものである。
「さあ、麓に降りたら、また忙しくなりそうだよ。
今度からは司にも手伝ってもらうこともあると思うから頼むね」
そう晴れやかな顔で雅が言うのだった。
雅の妖怪退治~修行~ 完
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