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雅達は国東山の入口に着く。
雅が髪の毛を一本抜き、近くの樹の枝に結んだ。
司もそれを真似して結ぶ。
そこには「入山禁止」の立て看板が立てられている。司が周りを見渡すと、あちらこちらの樹の枝に髪の毛が結ばれていた。
「ねえ、雅君。これは何かのおまじない?」
司は尋ねた。
雅や口元をほころばせて「にやっ」とすると
「ああ、ちゃんと結んだかい? 解けると戻ってこれないよ」
司はもう一度きつく結び直すのだった。
司は険しい登山道を登るのだろうなと思っていた。
だけれど、どこにも道が見当たらない。
「さあ、行くよ」
戸惑っている司を置いて行くかのように雅が山に足を踏み入れた。
藪を掻きわけて入って行く。
司は置いていかれてなるものかと慌てて後を追った。
(あれ? 思ったほど歩きにくくないわ。
なんだか枝や草が道を開けてくれているみたい。
不思議な感じだわ……)
「ふーん。今のところは大丈夫みたいだね」
雅が『意外だ』というような顔をして振り返って司を見た。
司は意味が分からなかったけれど、頷いて笑って見せた。
雅はどんどん藪の中を進んでいく。時々、後ろを振り返って司の様子を伺いながら。
司も雅の背中を見失わないように付いて行く。
進んでいくと森の奥は枝葉は少なくなり、腰の高さくらいの笹が茂っている程度で視界も良くなって歩くのも苦ではなくなってきた。
どこかに川が流れているのだろう、水の音が聞こえる。
「もう少し行くと滝があるから、そこで一休みするよ」
その言葉通り、しばらく進むと目の前に大きな滝が現れた。
「ああ、気持ちいいわ。体が軽くなる感じ」
これなら大丈夫と思う司であったが、それからの道のりは長かった。
滝の中に入り、流れ落ちる水の裏にあった洞穴へ入り進んだ。
洞穴では二日を過ごしやっと出た、と思ったら、岩山を二日上る。
そうして、やっと山門に辿りついた。
「はあはあ……。み、雅君。着いたの?」
「ああ、よく頑張ったね。司は選ばれたんだね」
「えっ? 何が?」
雅は答えずに笑っていた。
二人が山門に着いて、しばらくすると門が開いて、一人の若い男が立っていた。作務衣を着ている。
「岩戸様、お久しぶりです」
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