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若い男は雅に頭を下げて声をかけてきた。
「ああ、久しぶりだね、雲さん。しばらく厄介になるよ」
司に雲と呼ばれる男を紹介する。
司も頭を下げ自己紹介しようとした時、遮るように雲が言った。
「御子神司様ですね。お待ちしておりました」
どうやら雲は司が来る事を知っていたらしい。
(父さんが連絡したのかしら?)
そう思って司は頭を下げるだけにした。
二人は雲に連れられて参道を登って行く。
司はすぐに本殿に行けると思っていたのだが、小さな館に案内された。
雲は一礼すると去って行った。
館の中は割合広く十五畳ほどはあるだろうか。
真ん中に囲炉裏がある。
囲炉裏にはもう火が入っていてほんのり熱を感じる。
「司。今日はここで身を清めるんだよ。
不浄を本殿に持っていけないからね。向こうに風呂がある」
入口と反対側の戸を指差す。そして先に風呂に入るように司を促した。
風呂から上がると、着替えるようにと白い作務衣を手渡す。
その夜は雲が夕食を運んで来て、二人はそれを食べた。
司は興奮してなかなか寝付けなかったが、雅はすやすやと寝息を立てている。
その寝息を聞いているうちに、司も落ち着いて眠りに着いたのだった。
翌朝、本殿で雅達を迎えてくれたのは、年の頃三十を少し過ぎた風の若い僧であった。
司は少林寺の映画や古い日本映画に出てくるような、年老いて頭が光って白い髭を蓄えているような僧を想像していた。
しかし本殿の中の高価そうな座布団に座り、にこやかに笑顔を向ける僧は剃髪もしておらずに無造作に切りそろえられた髪型をしている。
袈裟はいかにも高級感のある感じだ。
その僧の柔和な笑顔を見ているうちに、司はいつの間にか緊張が解れていた。
「岩戸さん。久しぶりじゃねぇ。もう一年が過ぎましたか」
僧は明るい声で雅に話しかける。
「主(あるじ)もお元気そうですね。
すでにご存じのことと思いますが、今日は連れがおります」
そう言って雅は手の平を司に向けた。雅が司を紹介しているのだ。
「はい。分かっておりますよ。御子神様のご息女ですね」
そう言って僧は雅から視線を司に移した。
すると僧は「おやっ?」とほんの少し首を傾げてまじまじと司を見つめる。
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