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第一、修行と言う物を司は理解していない。
テレビなどで滝に打たれたり、火の上を歩いたりしたのを見た程度だ。
父からも雅からも修行の話を聞いたことがなかった。
司は何かアドバイスを貰えないかと雅を見たが、雅も光明同様ににっこりと笑っているだけであった。
「さて、司。僕は森の中を歩いて来るよ」
雅はそう言って立ち上がった。
司も後について行こうと立ち上がろうとしたが、雅はそれを手で制した。
「司。主が言うように、ここで自分が何をするか決めるんだ。
決めるまでここにいて、決まったら行動すればいい。
何もしなくてもいいんだよ。主は言わなかったけれど、ここに、この山にいるだけでも魂は浄化されるんだからね。
じゃあ、また、あとで…… 」
雅は司を置いて本殿を出て行ってしまったのであった。
(ああ、雅君、行っちゃった。どうしよう……)
司はどうしてよいか分からない。
雅はきちんと目的を持ってここに来ている。それを邪魔したくはない。
置き去りにされた形となった司は、座して色々と思案したが良い考えが浮かばない。
そこで光明に本殿の中を見物させてくれるよう頼んでみた。
「いいですよ。どうぞ、ご覧ください。
本殿の中にはただ一つの部屋を除いてはご自由に出入りされて構いません」
「ありがとうございます。それでは、その入ってはいけないと言うお部屋を教えていただけますか」
「ふふふ。お教えしなくても大丈夫ですよ。
その部屋へ司さんは入れませんから」
そう言って光明は笑った。
ともかく、光明の了解を得た形となった司は、本殿の中を見て回る。
本殿は外観を見て感じたよりも大きいらしく、二十数部屋があった。
その部屋を一つ一つ見学していく。
どの部屋にも、その部屋の主と思われる物があった。
ある部屋では仏像であったり、また違う部屋では太古の銅鏡と思われるものであったりした。
司は不思議だなと思う。
仏像は仏教である寺院に、銅鏡などは神道である神社にある物である。
それがここでは同じ建物の中に混在している。そこに不思議を感じていた。
(ここはお寺なのかしら、それとも神社なのかしら?)
そう思ったが、それを口にして聞く気はない。
きっと私自身が理解できる時がくると感じたからだ。
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