雅と司の修行

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 司が部屋を巡っていると、一つの部屋にとても惹かれた。  その部屋には小さな仏像が一つ鎮座している。  板の間で装飾は無く、上座の一段高い所に「ぽつねん」と木彫りの仏像が置かれている。  仏像は三十センチくらいで小さい。仏像全体の造りは細かに彫りあげられていて顔の表情はとても柔和に見えた。  その仏像を見ていると、心が落ち着くような気がする司であった。  司はその部屋で幾時間も飽くることなく仏像を眺めていた。  その頃、森から戻っていた雅は光明と話をしていた。 「主。やっぱり司は弥勒菩薩ですか」 「ええ。そのようですよ。  ずっと弥勒菩薩の間におります。  おそらく滞在中は、ずっとあの間で過ごすことになるでしょう」 「なるほど。上手く会話できるといいな」 「そうですね。きっとお力を授かるでしょう。  ……ところで岩戸さんは変わった物を御持参されましたな」 「ふふっ。やはりお見通しですか。実はこれです」  雅は懐から懐紙を取りだし広げて見せた。そこには半透明で艶やかに光る薄い扇状の物体があった。 「なるほど。これは珍しい 」  それは、妖怪『天降女子(あもろうなぐ)』の大白蛇を退治した時に拾った鱗(うろこ)であった。 「これは今後、あなたを助けてくれるでしょう。  一旦お預かりして形にしておきます」  そう言って光明は鱗を大切そうに手に取ると桐の小箱に納めた。 「よろしくお願いします」  この後、大白蛇の鱗は雅が下山する時に、雅の手に戻される事になる。  一週間の滞在中、雅はずっと森の中を歩き回った。  この森の中には『天狗』『狗神』『樹の精』などと呼ばれる妖怪や神の類が多く存在している。  その者達と会話して回っているのであった。  雅が天狗と会話していた。  会話と言っても存在を認識し、意を感じ取ると言った具合で、言葉による会話ではない。  雅は妖怪となり果てた老烏(からす)の羽を森の中に投げる。  烏の羽は天狗が集めているのを知っていたからだ。  いわば天狗への贈り物であった。貢物とは違う、貢物と言うのは守ってくれとか、願い事が成就するようにとか、見返りを要求するものだ。  雅の投げた羽は、純粋に天狗へ贈った物であった。 『この主の魂は浄化できたか?』 「もちろんさ」  雅は笑って答える。
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