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『ぱさっ!』
雅の背後で枯葉の音がする。
何かが落ちた時に発した音のようだ。
雅は音のした辺りを見る。
そこにはドングリで造られた輪のような物が落ちている。
『お前の連れにやる』
烏の羽のお礼らしい。連れにと言う事は司にと言う事なのだろう。
「ありがとな」
そのドングリの輪は数珠のようでもあり、ブレスレットのようにも見えた。
天狗の念が込められたドングリの輪である。
何かしらの力を有しているのだろうが、それが何かは分からない。
更に森の奥深くに進むと大きな岩がある。
雅はそこに角砂糖を一つ置いた。
「よう。久しぶりだな。土産だ」
雅は岩に向かい言う。
『ざっ!』
足元の熊笹が音を発したと感じた時、岩の上の角砂糖は消えていた。
『今度は牡丹餅がいい』
「ははは。相変わらず甘党だな。
今度は持ってくるよ」
『よし。その時に儂の宝物をやる』
「勘違いするな。そんな物、求めちゃいないさ」
雅の会話の相手は「狛犬(こまいぬ)」だ。
次々と歩き回り、色々な物の怪達と接していく雅だった。
物の怪と接するのは大きなエネルギーがいる。油断をすれば精を吸い取られてしまう。
彼らと接すること。それが雅の修行であった。
司の国東院滞在中は、光明や雅の思った通りに「弥勒菩薩の間」で過ごした。 何かに取り憑かれたかのように、食事や就寝以外の時を全てと言っていいほどその間に居た。
食事などの時も光明が声をかけねば、ずっとそこにいたかもしれない程であった。
弥勒菩薩……未来の救済仏となる修行中の仏とされている菩薩であると一般に言われている。
釈迦が救えなかった者、すなわち釈迦の手から漏れた者達を救うのだという。
誰に言われるでもなく司は弥勒菩薩像を磨く、布を使わず、自らの手で磨く。 そうせずにはいられないようであった。
弥勒菩薩の間に籠って三日経った時、司には「ある声」が聞こえていた。
……あなたの心で、救いなさい……
そう聞こえた。司はその声に問い掛ける。
(何を掬うのですか? どうやって救うのですか? )
漠然とした内容の言葉に心中で問うたのである。
答えはない。先程聞こえたと同じ文言の言葉が聞こえるだけであった。
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