光もたらす者

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「神の声に心を開いてください」  私の声かけのあと、二人で神に祈りを捧げる。 「父と子と聖霊の御名によって。アーメン」  胸の前で共に十字を切る。 「では、神のいつくしみを信じ、告白してください」 「…………」  重苦しい沈黙が続く。吐き出してしまえばラクになれるのに、なかなかその踏ん切りがつかないようだ。 「どうぞ」と促すと、黒田さんは小さく咳払いをして再び胸の前で小さく十字を切った。 「私には好きな人がいます。その人はとても美しい人で……清廉潔白な心の持ち主です。その姿を見るだけで私は……私は……」  苦痛の滲む声で、前屈みになる黒田さん。精神的に追い詰められ、肉体的にも痛みを感じているように息を吐く。見ているだけでも悲痛感を味わうくらいだ。  幼いころから馴染みのある彼がこんなにも苦悶する姿はとてもつらい。私はいつになく声のトーンを落とし、ゆっくりと話しかけた。 「大丈夫です。落ち着いて」  黒田さんは小さくコクコクと頷いた。私の声はちゃんと届いてはいるようだ。でもだからといって黒田さんの苦痛が薄まったわけではなかった。 「姿だけじゃない……声を聞くだけで、胸が熱くなるのです」  恋に苦しむ黒田さん。  私はなんとも言えない気持ちになった。この身を一途に神へと捧げ、仕えてきた私にとって恋というのは全く未知のモノだった。今までの人生の中で可愛いと思う異性はもちろんいたけれど、この道と決め神学へ進むのは個人の恋愛とはかけ離れていくということだった。  そも、私自身が抱いた感情も信仰心以上に勝るものでもなかった。  恋愛を知らない私に、黒田さんの苦しみはわからない。私が神に抱く想いもそれとは違う気がする。苦しみの中にいる黒田さんへ私のできることは話を聞き、私の持つ限り。知る限りの愛を解くことしかない。
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