光もたらす者

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『愛しているよ。私を忘れないで』  優しく沁みこむ声は、まるで手に届かぬものを憂い諦めてしまっているような哀しい音色だった。  どうして? という疑問と共に、一気に不安が押し寄せる。私を満たしていた幸福を取り上げられるようなそんな気がした。  私は彼に手を伸ばし、寂し気なその顔に触れ心から請うた。 「ああ、おそばに、そばに……置いて下さい……ずっと……どうか……行かないで」  彼は優しく微笑み私を抱き締めた。 『その言葉を待っていたよ』  耳元で囁くハッキリとした声。ふわふわした物体のない彼は今、はっきりとしたな質感で目の前に現れ、半裸の腕が私を抱え上げた。  どうなるかなんてわからない。でも、もう私に一切の迷いはなかった。求められ、求める苦しみと喜びは、生命に光り輝いてることを私は知ってしまった。  彼の腕の中、彼の胸に身を委ねると大きな漆黒の羽が二人を包む。 「一緒にきてくれるか?」  彼の綺麗な瞳を見つめ私は静かに頷いた。
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