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彼の名前は黒田さん。ご両親と十歳以上離れた可愛らしい弟さんとの四人で暮らしている。たしか私と五歳違いだったかな? 年は少し離れているけれど、同じ合唱隊に入っていて、彼を幼い頃からよく知っていた。そんな彼ももうすぐ成人を迎える。あの頃は私よりずっと小さかったのに、今は私の方が彼を見上げなければならない。
頑丈そうな太い腕を包んだ白いTシャツは汗と埃で汚れている。ジーンズも膝が破れている。きっと仕事の合間に顔を見せてくれたんだろう。
「神父様、あの……」
彼は手にしたタオルをさらに握り締め、モジモジしながら言った。言いにくそうに目を伏せている。なにか悩みを抱えているらしい。
「こんにちは。どうされました?」
「あ! こ、こんにちは。あの……神は……どんな罪も、許してくださるのでしょうか?」
黒田さんは目を伏せ、言いにくそうにボソボソと言葉を落とす。えらく恐縮した様子の黒田さんが少しでも心穏やかになれるよう、そっと微笑みを浮かべ落ち着いたトーンで話しかけることにした。
「なにかあったんですか?」
「告解……したいのです。もう、耐えられない」
震える声に、ひどく苦しそうな表情。こんなに怯えきって……助けてあげたい――
「大丈夫ですよ。では、こちらへ」
「…………」
逞しく大きな背中にそっと手を当て、礼拝堂の奥にある、懺悔するための小部屋。告解室へと案内する。
黒田さんは手に持ったタオルをギュウギュウと絞りながら、無言で頭を下げた。
告解室は人一人が入れるだけの幅の箱のような部屋で、左右に入口がある。箱の真ん中にある一枚の壁。椅子に座ると丁度顔の辺りが細かい格子になっていて、少しだけお互いの顔が見れる。この壁を挟んで告解を行う。暗く狭い閉鎖された空間で静かに自分と向き合い罪を告白するのだ。
黒田さんは告解室へ入り、静かに座った。
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