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私は合わせた両手の指を組み、静かに頷いた。
黒田さんは恐る恐る慎重に再び口を開く。
「……その閉ざされた隙のない服を剥ぎ取り、白い首筋に思い切り吸い付きたくなる……毎晩、毎晩、いやらしい妄想を描いて、己を慰めています」
黒田さんの悲痛の告解はだんだん妖しいものとなり、私は息を飲んだ。
「人を愛する事は素敵な感情です。決して罪ではない」そう解きたかった。素晴らしい恵みなのだと。
しかし、黒田さんの迫力と信じがたい言葉に圧倒され言葉が出てこない。
苦しそうに息を吐き出しながら黒田さんの告解は続いた。
「……白い肌に口付けたい。小さな胸の蕾を舌で転がしながら……隠された奥の奥を俺のモノでいっぱいにしたい……」
呼吸は止まり、息ができない。時間も空気も止まってしまったようだった。ただただ圧倒され、鼓動が胸に響き下腹部が熱くなっていく。
「泣き叫ぶ姿が見たい。喘いでいるあなたが見たい。いつもそう思っているのです」
私は驚き、その瞬間、微動だにできなかったはずの体が動き、足が椅子に当たってしまった。ガタッと大きな音が立つ。
動揺を見せてはならないはずの自分が……。
神聖な告解の場なのに、静寂を保ち心を鎮めるべき場所で、それを促すのが自分の使命であるはずなのに。
私の失態に、突然黒田さんはスクッと立ち上がった。
「あっ、黒田さん!」
慌てて呼び止めた私の声は届かず、扉が閉まり部屋から出て行ってしまう。
私としたことが、これでは神父失格。
何を言われたにせよ、相手に動揺を見せるなんて。黒田さんはあんなにも苦しそうに告白をしてくれたのに。
後悔にさいなまれていると開くはずのないこちら側の扉が開いた。目の前には黒田さんの姿。
「……あ、ご、ごめんなさいっ」
私はその場で頭を深く下げた。
「静かに聞く立場であるわた……しが、……」
放たれた扉から射し込んでいた光が遮られる。顔をあげると黒田さんの目は熱病でも患っているように虚ろだった。
黒田さんが一歩踏み出す。ドアが内側から閉められた。鍵を掛ける音。
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