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「素晴らしい効果だ」
博士は溶液が入った丸形フラスコを見ては喜んでいた。
「博士。何かよいモノでもできたのですか?」
いったい、何がそんなに素晴らしいのか助手が博士に尋ねた。すると、博士は嬉しそうにフラスコを助手に見せる。
「君は、これを何だとおもうかね?」
博士が見せてきたフラスコにはおかしなものが入っていた。半透明のブニブニしたゲル状の物質だ。
「何だか、おかしな物体ですね。新種の緩衝材か何かですか?」
「緩衝材。面白いことをいうね。確かに、少しは衝撃を吸収できるかもしれない。しかし、これは緩衝材には使えない。なにせ、これはW剤なのだから」
「W剤ですって!」
W剤と聞いて、助手は顔を真っ青にして退いた。彼が慌てるのも当然である。W剤といえば、軍が極秘裏に開発した猛毒性の物質なのだ。その危険性故に、実践には用いられなかったのが、せめてもの救いだ。どうして、実践に使えなかったのか。それは、W剤の揮発性の高さにあった。よほど密閉性に優れた容器に保管しておかなければ、あっという間に気体に変わり吸ったら最後、全身の神経がマヒを起こして死んでしまうのだ。
博士はそんな劇物が入ったフラスコを左右に振って助手に見せる。危険性を知っているのならば、正気とは思えぬ行動だ。
「落ち着きたまえ」
慌てる助手とは対照的に博士は妙に落ち着いていた。フラスコの中にあるゲル状のW剤をシャーレに空けて素手で触ってみせる。
「これが、ただのW剤ならば、とうの昔に研究室に充満しているはずだろう。そうなれば、私も君もとっくに死んでいたはずだろう」
「あ、そういえば・・・」
博士の言う通りだ。ここまで大胆に扱っているというのに、ゲル状のW剤は少しも揮発する様子をみせない。一応、室内は空気清浄機を使っているとはいえ、その程度でW剤の毒を防げるはずもなかった。
「いったい、何を作ったのですか?W剤を無毒化する薬ですか?」
「いや。そんなものではない。もっといいものだ」
と、博士は言う。
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