万能安定剤

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 それにしても、不思議な光景だった。危険性極まりないW剤が、まるで小学校での科学の実験でみるような物体まで安全になっているのだから。シャーレに乗せられたゲル状のW剤を博士がスライドガラスに移して、電子顕微鏡にかけてみせる。助手がレンズを除くと不思議な光景が見えた。  W剤の物質が何かに囲まれている光景であった。それが、W剤を安定させゲル状に保っているように見えた。  レンズから目を離した助手が博士の方を見ると、彼はポケットから試験管に入ったある溶液を見せる。 「これは、私が開発した新種の安定剤だ」 「安定剤ですか?」 「そうだ。万能安定剤とでも呼ぼうか。これを使えば、どんな気体、液体、固体でも安定した状態を保てる。効果は定期的に安定剤を与え続ければ半永久的に続くという代物だ」 「それは、本当ですか?」  助手は目を丸くして、思わず博士に聞き返した。それが、本当なら画期的な大発明である。 「当然。この安定剤の利用価値は無限大だ。例えば、氷。氷は熱くなれば、解けてしまうのは不安定な状態であるから。しかし、凍った段階で、安定剤を使えば・・・」 「効果が切れるまで、その状態を維持できる」 「その通り。これまでは、野菜、魚、肉など鮮度が命とされてきた食材も安定剤を使用すれば、とれたての状態を維持することができる。工業にしても、一度熱した炉に安定剤を使用すれば、長時間同じ温度を保ち続け、炉の温度を保つ為に余計な燃料を使わなくても済むようになる」 「それは、素晴らしい薬です!これが、あればあらゆる産業に革命を起こせます」  冷凍不要というのも生鮮食品業界に衝撃を与えることだろう。  安定剤を使用さえすれば、それ以上のエネルギーは何一ついらない。効果が切れれば、元のようになる。 「さらに、このW剤でも分かるように、単に食品や産業に役立つだけでなく、こういった危険な物質にも応用することが可能である」
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