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信号が変わる。二人で歩く。
本来であれば、普通今日出会ったばかりの人に名前を教えたりしない私が名前を教えていた、人見知りしてしまう私が、成瀬さんに対しては不思議と人見知りしなかった。
それはもう引力のようなもの、と呼ぶしかなかった。
「理沙ちゃんは、」
「は、はい」
「部活とかバイトとかしてるの?」
「バイトは、一応。近くのコンビニで、週4回くらいなんですけど。」
「そっかー。俺はね普通に会社員。今日は休みだったんだ。だから、いつもは行かないとこに行こうって思って。行ってみたら雨に降られちゃったんだけどね。」
笑いながら楽しそうに言う。
「そうなんですか。災難でしたね。」
「でも、雨宿りしなきゃ理沙ちゃんには会えなかったから。」
やっぱりすごく優しい人だと思った。
「最寄りの駅だから、」
タイミング悪くトラックが近くを通った。
「えっ」
「最寄りの駅だから、多分また会えるよ。」
少し大きめの声で成瀬さんは言う。
「あ…、そうですね。はい!」
夢の中にいるような気持ちになった。
気付けば分かれ道まで歩いていた。
「俺、こっちなんだ。理沙ちゃんは?」
「えっと、あっちです。」
「そっか。じゃあ、またね。」
「はい、また。」
また今度があるのだと思うと私は少し嬉しかった。
成瀬さんは、夢のような人だと思った。
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