帰り道と雨宿り

14/14
前へ
/21ページ
次へ
油断をすると泣きそうだった。空を見る。そうだ、私、この星空を綺麗だと思う感覚を成瀬さんと共有したかったんだ。でもだめだ、勝手に落ち込んでしまって、なにか言おうとしてもうまく言葉にできなかった。 私があまりにもずっと空を見続けているから、成瀬さんも不思議そうに空を見た。 そして一言だけ言ったんだ。たった一言なのに私の心を溶かしていく。成瀬さんは肌寒い日のコーンポタージュなんかじゃない。成瀬さんはもっともっとずるい存在だと思った。 「星が、綺麗だね。」 確かに私にそう言ったんだ。私はなんだか嬉しくなって、涙が出そうになる。そして、思わずびっくりして成瀬さんを見てしまった。油断した。涙が頬をつたう。成瀬さんは驚いた顔をしたあと、ゆっくり微笑んだ。 「理沙ちゃん」 私の名前を呼びながら涙を拭う。成瀬さんの手が私の頬に触れている。驚いて、成瀬さんから目をそらす。 どうしよう。きっと困らせてしまった。成瀬さんに嫌われてしまうかもしれない。 「えっと、送っていかなくて大丈夫?俺は、こっちだから…。」 嫌われたかな。嫌われてないかな。何も言えない。ただゆっくりと頷いた。 「じゃあ…またね。」 今度は、あるのかな。成瀬さん。私はまだ子どもだから次の約束にこだわってしまうけど、成瀬さんは大人だから次の約束なんか聞きたくないよね。 分かっていながら、成瀬さんの言う「またね」にすがらずにはいられない。 分かれ道で一人になってから私は目を閉じて、頬に触れた成瀬さんの手を思い出していた。 また、涙が私の頬をつたっていた。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加