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油断をすると泣きそうだった。空を見る。そうだ、私、この星空を綺麗だと思う感覚を成瀬さんと共有したかったんだ。でもだめだ、勝手に落ち込んでしまって、なにか言おうとしてもうまく言葉にできなかった。
私があまりにもずっと空を見続けているから、成瀬さんも不思議そうに空を見た。
そして一言だけ言ったんだ。たった一言なのに私の心を溶かしていく。成瀬さんは肌寒い日のコーンポタージュなんかじゃない。成瀬さんはもっともっとずるい存在だと思った。
「星が、綺麗だね。」
確かに私にそう言ったんだ。私はなんだか嬉しくなって、涙が出そうになる。そして、思わずびっくりして成瀬さんを見てしまった。油断した。涙が頬をつたう。成瀬さんは驚いた顔をしたあと、ゆっくり微笑んだ。
「理沙ちゃん」
私の名前を呼びながら涙を拭う。成瀬さんの手が私の頬に触れている。驚いて、成瀬さんから目をそらす。
どうしよう。きっと困らせてしまった。成瀬さんに嫌われてしまうかもしれない。
「えっと、送っていかなくて大丈夫?俺は、こっちだから…。」
嫌われたかな。嫌われてないかな。何も言えない。ただゆっくりと頷いた。
「じゃあ…またね。」
今度は、あるのかな。成瀬さん。私はまだ子どもだから次の約束にこだわってしまうけど、成瀬さんは大人だから次の約束なんか聞きたくないよね。
分かっていながら、成瀬さんの言う「またね」にすがらずにはいられない。
分かれ道で一人になってから私は目を閉じて、頬に触れた成瀬さんの手を思い出していた。
また、涙が私の頬をつたっていた。
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