演技なんかじゃない

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「志保!ねえ、志保ったら!」 会社の若手の飲み会で酔い潰れた志保を揺さぶりながら、私は途方に暮れていた。 「しょうがねえな。3人でタクシーで帰るぞ。小室の荷物も持てよ。」 道城さんが志保をおんぶして、シティホテルの外に出た。途端に総務課の女子社員達の黄色い声が響いた。 「いやー、道城さん!」 「小室さん、ずるーい!」 彼女たちに近づくと、道城さんは大げさにため息をついた。 「そんなに言うんだったら、俺の代わりにおぶってやってよ。俺だって好きでやってるんじゃない。」 黙り込んだ彼女たちを尻目に、さっさとタクシー乗り場に向かう道城さんを慌てて追いかけた。 「小室の住所、わかるよな?」 私が頷くと、道城さんは志保を後部座席に押し込んで、自分は助手席に乗り込んだ。 志保の隣に座った私が志保の住所を告げると、運転手は愛想のない返事をして発進させた。 ふと思いついて、志保の彼氏の亮平さんに電話してみた。 「もしもし、亮平さん?今、電話大丈夫ですか?」 狭い車内にやけに響く自分の声。振りかえった道城さんが眉間にしわを寄せて私を見ていた。 「志保が酔い潰れちゃって。今、タクシーで送っていく途中なんですけど。…はい。あ、男の先輩も一緒だからそれは大丈夫です。…はい。わかりました。…はい。じゃあ、お願いします。」 「小室の男?」 「はい。今から志保のマンションに向かうって。もしも私たちの方が早く着いたら、鍵を開けてベッドに寝せておいてくれって。」 「そいつの男にしては出来た奴だな。」 「はい。優しい人ですよ。」 何回か会ったことのある亮平さんは、志保に甘々の彼氏さんだった。 「いきなりおまえが彼氏の名前と違う男に電話したから驚いた。友達の彼氏と連絡先交換しているなんて思わないから。」 ああ、それで睨むように見ていたのかとやっとわかった。 「前にもこんな風に潰れたことがあって懲りたんです。」 「なるほどね。おまえは見かけによらず酒に強いのに、こいつは案外弱いな。」 「その方が可愛げがあっていいですよね。」 「いやいや、面倒極まりねえよ。おまえは彼氏と家飲みしないのか?」 「司が飲めないのに私だけ飲むのは悪いから。」 「飲ませてみろって。結婚する前に確かめるべきだよ。」
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