演技なんかじゃない

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「イヤですよ。司もそれで私に嫌われるのを怖がっているんだから、お互い確かめない方が幸せです。」 「目撃者に話を聞いたことはあるんだよな?どうだって?」 「近くにいた女性を押し倒して、男の人3人がかりでやっと引き剥がしたって。でも、その場で行為に及ぶんじゃなくて、その女の人とタクシーでどっちかの家かラブホに行くのがいつものパターンみたいです。」 「その場でじゃないってことは、ある程度酔いが醒めてからってことなんじゃないのか?タクシーで自分の住所を言えているんだろ?金も払っているだろうし。」 「もういいんです。司を信じるって決めたから。もう飲み会に参加しないって言ってくれたし。 全く覚えていないとは言っていないんです。ヤったってことはちょっとは覚えていると言ったこともあるし。 嘘じゃないと思うんです。記憶が切れ切れになることってあるでしょ?」 「納得できねえな。そんなんでいいわけ?どうせおまえの親には話してないんだろ?」 「言えませんよ。」 ため息をついて俯いた私に道城さんもため息をついた。 志保のマンションに着くとエントランスで待っていた亮平さんが駆け寄って来た。 志保を亮平さんに預けると、今度は道城さんも後部座席に座った。 「このままなかったことにしたら後悔するぞ?」 「またその話ですか?大体、司に飲ませたって同じですよ。私のことを押し倒して無理やりヤって寝るだけ。それで何がわかるって言うんですか? もしも記憶があったとしても、無い振りをするだけでしょ?」 「そんなもんか?演技を見破れないのか?」 「わかりませんよ。道城さんだって女性の演技を見破れているって自信、ありますか?」 「いや、俺に演技する女なんていないから。」 「ほらね、見破れないでしょ?女なんて多かれ少なかれ演技していますよ。これ常識です。」 ちょっと憐みの目で道城さんを見てしまった。 「言うね、おまえも。じゃあ、おまえも彼氏に抱かれながら演技しているんだ。」 「多少は。だって、浮気されたってわかってすぐに抱かれたって、そんなに感じる訳ないじゃないですか。」 「ふーん。」 「男の人だって演技するんでしょ?感じている振りをしたり、別の女の子のことを考えたり、イった振りして切り上げたり。」 「演技って言うか、まあ、向こうの盛り上がりに合わせることはあるけど。」
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