演技なんかじゃない

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司が抱き締めてくれたことに涙が滲むほどホッとした。 「真白と道城さんがそんなベッドでのことを話すような間柄だったっていうのが、凄く嫌だ。女の部分を俺以外の男に見せていたっていうことが凄く嫌なんだ。」 司の切ない声に胸が締めつけられた。 私と道城さんはただの職場の同僚で、男と女なんて意識して会話したんじゃない。司の裏切りのことは話してあるから、その流れであんなことを話してしまった。 「その話をしたのはさっきのタクシーの中で、運転手さんもいる空間だったし前を向いて座っていたから、女の部分を見せていたつもりは全然なかったの。 でも、ごめんなさい。話の流れとはいえ、そういう話はするべきじゃなかったね。」 「どんな話の流れ?」 「道城さんは司が酔った時、どんな風に女の人たちを抱いていたのかを私が知るべきだって前から言っていて。 私はそんなの知っても意味がないって言ったんだけど、道城さんは記憶があるのに無い振りをしていたら見破れるだろうって。」 「道城さんは俺が記憶があるのに浮気していると思っているんだ。」 「うん。タクシーで住所を言ったりお金払っているんだから、ある程度酔いは醒めてるだろうって。」 「そう思われても仕方ないか。」 「で、私が見破れるかどうかわからないって言ったの。道城さんだって女の人が演技しているのを全部見破れているかどうかわからないでしょって。」 「それ、道城さんに言ったの?」 ちょっとおかしそうに司が尋ねた。 「うん。それで女は多かれ少なかれ演技している。男の人だってそうでしょ?って言ってやったの。」 「なんか真白、経験豊富みたいじゃないか。」 からかうように顔をのぞきこまれたから、ムッとして口を尖らせた。 「だって、志保だって奈々だってそう言っていたもん。 彼氏が避妊具を用意するのにモタモタしてると急に冷めちゃうけど、感じている振りして喘ぎ続けてあげるんだって。」 「へえ?真白もそう?」 「司はモタモタなんてしないもん。嫌になるぐらい手慣れているから、気付かない時もあるぐらいだよ。」 「それはいいこと?悪いこと?」 「司が女慣れしているのはどうしようもないことなんだから、私の気持ちの問題。」 「そうやって全部我慢するなよ。真白を傷つけているってこと、ちゃんと俺に気付かせてほしい。そしたら、俺だって謝ったり言い訳することができる。」
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