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そうか。私は司に言っても仕方ないって諦めて、心の扉を閉じていたのかもしれない。司に閉じたことを気付かせるチャンスも与えなかった。
「避妊具の扱いがスムーズなのは高校時代一人で練習したから。」
「え?」
思わず司の顔をまじまじと見てしまった。ふと目を逸らせた司は恥ずかしそうにため息を吐いた。
「まだ女も知らないのに毎日毎日練習したよ。漫画でさ、口にくわえてゴムの袋を破くシーンがあって、それがカッコ良くて憧れたんだ。」
「司、よくやるよね。あれ、漫画の真似だったの?」
「そ。まあ、片手が空くから弄り続けられるしね。」
やけに手慣れた動作が練習の賜物だったなんて…
だから、記憶がなくても装着出来たのかもしれない。
「俺は感じている演技なんて1回もしたことないけど、なんで真白は男も演技するって知っているんだ?」
「志保に聞いたから。志保、前の彼氏と別れる時に言われたんだって。君とヤろうとしても勃たないから、グラビアアイドルのことを考えて勃たせていたって。
それでも途中で萎えちゃうから、イった振りして切り上げていたけどゴムの中は空っぽだったんだって。
志保、わざわざ種明かししてくれなくてもいいのにって号泣していた。」
「酷いな。」
「うん。だからね。司が演技していても私は気付かないでいるのかもしれない。
でも、司が私だけを愛しているって言うなら、私はそれを信じる。
たぶん、何度裏切られても信じる。」
私たちの付き合いは平坦な道じゃなかった。
司に恋をした時、司には結衣さんという恋人がいた。
なんとか付き合い始めても、司は何回も浮気して。
今度こそ、もうダメって思ったけど、やっぱり離れられなくて。
でも、そんな山あり谷ありの中で、私たちの絆は強くなっていったのかもしれない。
「ありがとう、真白。もう絶対真白の信頼を裏切ったりしない。俺も真白の愛を信じるよ。」
重なった唇は少し震えていた。
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