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「はい。いつも真白がお世話になっております。」
気分はすっかり真白の夫だ。
「いえ、こちらこそ。」
「実は真白を怒らせてしまいまして。家を出て行ってしまったんですが、真白が行きそうな所をご存じないかと思いまいて。」
5歳も年下のハタチの子にこんな恥をさらすのはいささか抵抗があったが、真白の安全のためなんだから仕方ない。
「私の所には来ていません。」
「真白は財布も携帯も置いて行ったんで、家からそう遠くには行っていないだろうと思って、徒歩圏内は探し回ったんです。
でも、見つからないところを見ると誰かの家にお邪魔しているのかと思いまして。真白の家から行ける範囲に住んでいる会社の人とか心当たりはありませんか?」
「そうなんですか。ホントしっかりしてるようで抜けてるって言うか。えーと、確か道城さんが同じ路線で時々一緒に帰っていたと思います。あとはわかりません。」
「道城一夜さんですね。わかりました。聞いてみます。ありがとうございました。」
真白が男と時々一緒に帰っていたなんて初耳だ。
どす黒い感情が湧きあがる。
まさか俺への当てつけで抱かれに行ったんじゃないよな?
「いいえ。あの、真白が見つかったら連絡するように言って下さい。心配だから。」
小室さんは何か言いたげだったが、俺はもう一度礼を言って通話を終了した。
家を飛び出すほど真白が怒ったのはなぜなのか。聞かなかったのは予想がついたからかもしれない。また俺が浮気したんだと。
ハァとため息をついた。
俺って真白の友だちから見たら、浮気を繰り返す最低の男なんだろうな。
その割には、小室さんの口調は刺々しくなかった。
そんなダメ男と別れない真白に呆れているのかもしれない。
頬を両手でパンパンと叩いて、気合いを入れ直した。
誰からどう見たって、俺が最低のことをしてきたのは明らかなんだ。
電話帳の『道城一夜』を液晶画面に表示させて通話ボタンを押す。
どうする?もうヤられていたら?
もしそうでも真白を咎める資格は俺にはない。
なんとか許してもらって連れ帰るしかない。
道城を許すつもりはサラサラないが。
「はい。道城です。」
怪訝そうな硬い声なのは、真白と親しくないからか、真白の携帯を今俺が持っていると知っているせいか。
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