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「夕べは中島とオールでゲームしてて。つい夢中になって連絡するの忘れてた。ごめんって。」
「なんでデートの前の晩に徹夜するわけ?1か月ぶりだってのに、もう昼過ぎ。
今からじゃ水族館行けない。」
楽しみにしていたのに。朝、迎えに来るっていう話だったから待っていたのに。
夕べから電話もメールも一切連絡の途絶えた彼を嫌な予感を抱えながらも、ひたすら待っていたのに。
「どうせ今からじゃ、どこにもいけないからさ。ピザ取って、家でまったりデートしよ?」
目の前で悪びれもせずニッコリ微笑むのは、相羽 司(あいば つかさ)、25歳。
付き合って2年半の私の彼氏。
「えー?水族館は無理だけど、映画見に行くとかショッピングとか。」
暦通りの会社で働く私とシフト制のお店で働く彼とでは、休日がなかなか合わない。今回みたいに1か月ぶりのデートなんて珍しくない。
だからこそ、外で手を繋いで歩いたりしたいと思うんだけど、彼は面倒なのか家に居たがることが多い。
「俺さ、昨日まで恐怖の5連勤で疲れてるんだよ。人ごみに行くの勘弁して。」
こっちは毎週5連勤ですけど。
私はオフィスで机に向かう事務仕事だから全然違うのはわかるけど、疲れているなら徹夜でゲームするなと言いたい。
若い女性向けのアパレルショップでマネージャーをしている司は、立ち仕事だから通常4日以下の連続勤務となっているらしい。
時々5日連続のシフトになるとキツいとか辛いとか零す。
シフトを組むのもマネージャーの仕事なので、他のメンバーの希望を叶えようとすると自分にシワ寄せが来るみたいだ。
「まあ、いいけど。」
いつも折れるのは私の方で。
ホッとしたように微笑んだ司は靴を脱いで、私の部屋に上がった。
「徹夜した割にはすっきりした顔してるよね。」
暗い玄関で話している時は気づかなかったけど、1Kの狭い部屋で至近距離で見た司の肌はハタチの私よりも張りがあるぐらいだ。
「え?ああ。一度帰って仮眠取ったから。」
嘘だ。
ギクッとした表情や目を泳がしながらの言い訳に気づいてしまった。
「浮気した?」
気づきたくなんかないのに、どうしていつも気づいてしまうんだろう。
私がもっと鈍感で、司がもっと誤魔化すのがうまかったら良かったのかもしれない。
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