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司が帰ってきたら、入れ違いで自分の家に帰ろうと思ったけど、司が今日中に帰ってくるとは限らない。
いや、司は明日は仕事だろうから、朝には私の自宅を出るはずだ。
だったら、明日の朝までの辛抱だ。
丸一日食べなくても飢え死にしないとはわかっているけど、さっきから私、食べ物のことばかり考えているような気がする。
彼氏に浮気されたのに食い気が先に立つってどうなんだろう。
「ああ、もう!背に腹は代えられない。」
パンプスを引っ掛けると隣の家のブザーを押した。
「何。」
怒った顔の隣人に眉をひそめた。
「まず、夕べうるさくしたのは私じゃないですから。
それで、申し訳ないですけど千円貸してくれませんか?今度、倍にして返しますから。」
「説明求む。」
隣の瀬名さんは推定年齢30歳の独身サラリーマン。半年ほど前に越して来て以来、司と良好な近所付き合いをしている。
きっかけは夜中に瀬名さんが怒鳴りこんで来たことだった。
ちょうど司と私はエッチの真っ最中で、何かと思ったら私の”あの声”がうるさいという苦情だった。
その翌日、家の前で鉢合わせしてしまい私が謝ったことから、なぜか時々3人でゲームをする仲になった。
「ちょっとここでは…」
丁度通りかかった別の住人に会釈をしながらそう言うと、
「入って。」
とドアの中に入れてくれた。
「実はですね、司が夕べここに連れ込んだのは私じゃなくてバイトの女の子なんです。
それを聞いて怒った私は家を飛び出したんですけど、お金を持ってなくて、とりあえず司の家に来ちゃったわけで。
お腹空いたんですけど、お金ないんで貸してもらえませんか?」
「真白ちゃん、浮気されたってわかってる?」
呆れたような瀬名さんの目が痛い。
「わかってますよ。司が酔うと誰かれ構わず襲っちゃうって聞いたでしょ?」
「聞いたけど、本当だったんだ。でも、『誰かれ構わず』じゃないよね?
男は襲わないし、老婆も小学生も襲わない。ちゃんと若い女を選んでる時点で、確信犯なんじゃないの?記憶をなくすとか言ってたけど。」
「ごもっともです。」
「ずいぶん冷静だね。慣れてるから?」
「まあ、そうですね。でも、今回はちょっと堪えてます。これでも。」
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