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教室の戸を開けると、そこは見事に野郎ばかりだった。
あっちを向いてもこっちを向いても野郎。
女の子が居るのは情報科のほうだけ。
キャンパスとはいえ、小さな街中のビルに無理やり詰め込んだようなお粗末なものだ。出会うとしても、10パーセント程度の女子を取り合うよりは、よその大学と合コンでもしたほうがまだマシだけど、そういうチャラチャラしたやつとは、昔から相容れない。
というか、お誘いすらない。
俺は、ダサ眼鏡なのだ。眼鏡は眼鏡でもチャラ眼鏡ならモテる。
俺の性格上、それは無理だった。女の子と上手く話せない。
たとえ、チャンスがあったとしても、ただのお友達で終わりだ。
そんな俺だが、全くモテないわけでもない。
入学式の日、一人の女の子に声をかけられたのだ。
その女の子はJ。女の子と言うには憚られるほど。
見た目は大阪のおばちゃんだ。とても同い年には見えない。
太いし声もでかい。やたら馴れ馴れしい。
早速見つけられてしまい、まるでJは恋人のように俺の腕に腕を絡めてきた。
「ちょっ、何すんだよ。馴れ馴れしい。」
「いいじゃん、照れなくてもさあ。」
なんてあつかましい。周りがニヤニヤと奇異の目で見る。
「お似合いだな」
ぼそっと小さな声が聞こえる。
クスクス笑い。
最初からもう憂鬱だ。最悪。結局彼女は俺の隣に当然のように座った。
初めての講義が始まる。
教室の戸が開くと、どよめきが起こった。
俺は、隣のJがまとわりつくことに気を取られていて、一瞬遅れて、そちらを見た。
「嘘っ!」
俺が小さく言うと、Jが不思議そうに俺を見た。
なんと教室に入ってきたのは、お隣さん。
トオノさんだったのだ。
俺はいつの間にか立ち上がっていた。
それに気付いたトオノさんは、こちらに気付いて微笑んだ。
トオノさんは何故か教壇に立った。
「はじめまして。これからこの講義を受け持つトオノです。」
どよめきと男達の歓声。
嘘だろう?トオノさんが教授?
教授なんて、どう若くても、30代後半だよな?
あり得ない。どう見ても、20代半ばくらいにしか見えないんだけど。
Jが俺のシャツの裾を引っ張ってようやく俺は我に返って着席した。
Jは何か言いたげに俺を見る。
いやいや、何でお前にそんな不満そうな顔をされなきゃなんないんだよ。
彼女じゃねえし。
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