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「あの。貴女は紅葉ヶ丘めい、ですか?」
「へっ…あ、はい。…え?」
紅葉ヶ丘めい。
それはれっきとした私の名前だ。
呼び留めた本人さえも私の肯定の言葉に目を見開き、驚いたようにせわしなく手元の文庫本をしきりに撫でた。
タイトル文字を撫でるその手は酷く優しい。
「ああ、やっぱり、貴女が」
「あの、私、お知り合いでしたっけ…」
少し気味が悪くなって怪訝な目をむける。
相変わらずせわしなく指を蠢かせる彼は、少し切なそうな顔をして、待ってくださいと呟く。
「一つ。お願いがあります、紅葉ヶ丘めい」
噛み締めるように私の名前を呼んで、彼は悲痛な声で告げた。
「僕の心臓を返してほしいのです」
これが、全てのはじまりだった。
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