3人が本棚に入れています
本棚に追加
雨が降っていた。
しんしんと降る雨は止むことを知らず、全てを洗い流していくようだった。
全て。何もかも。
あの日を思い出す。あの日もまた、雨が降っていた。
私が彼に出会ったのは、ある雨の日だった。
高校の帰り道、傘を差して歩いている私の前に、彼は現れた。
気がついたら目の前にいた。
人通りの多い駅前で、傘もささずに土砂降りの中を、首だけ傾けて空を見上げている。
その表情は、笑っているような、泣いているような、怒っているようにも見えた。
「そんなとこにいたら濡れるよ」
そんなつもりはなかったのに、気がついたら私は初対面の彼に話しかけていた。
彼は首だけ動かしてちらと私を見る。
「大丈夫。雨は好きなんだ」
答えになっていない。
雨が好きだから濡れてもいい、というのか。
彼は視線を空に戻して、言った。
「君はなんで傘を差しているの?」
その質問に私は唖然とする。
「濡れるから? それとも、雨が嫌いだから?」
そんなの、濡れるからに決まっている。けど理由はそれだけじゃない。
わざわざそんな問いを投げてくる彼に、眉をひそめる。
すると彼はもう一度こちらを見て口を開いた。
「もしかして……傘が好きだから?」
悔しいけど、正解。
傘が雨を弾く様子を、傘の内側から見ているのが好き。
傘が雨を弾く時の音が好き。
最初のコメントを投稿しよう!