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レンは強く訴えかけてくるその視線を無視して、カードをカッティングマシーンにセットした。
そのボタンに手を伸ばす。
二度目の神業。
先ほどと同じように集中力を限界にまで高めると、頭の片隅がチリチリと痛んだ。
レンを他所に、貴公子は彼女に向かって言った。
「貴女の態度はナンセンスだが、見習うべきでもあるようだ。勝負は強気なものが制する。私は少し臆病風に吹かれてしまっていたようです。王女の加護を当てにするのはもうやめましょう」
レンは貴公子の言葉を聞き流しながら、カッティングマシーンのボタンを押す。
若い女が言った。
「どうせ王女も革命で落ちぶれちゃうものね」
隣のメガネの優男が、おかしそうにクックッと喉を鳴らして笑う。
「僕たちの気分次第で、持ち上げられたり、落とされたり。こんな扱いじゃ、王女はさぞかし僕らを恨んでいるだろうな」
「いいえ、そんなことは無いと思いますよ」
そう言って首を横に振ったのは、彼女だった。
彼女は言った。
「王女は、例えどんなふうに扱われたとしても、相手が幸せだと納得できたなら、それで本望だと思います」
(っ!?)
それを聞いたとき――聞こえてしまったとき、レンの集中力が一瞬途切れ、カッティングマシーンのボタンを離すタイミングがわずかに狂った。
(しまった)
ずれたタイミングから、すぐに現在のカードのシャッフル状況を計算し、当初に計画していた順番に並び替えるために、あとどれだけシャッフルが必要かを割り出す。
美女が、彼女に言った。
「優しい王女さまなのね」
「……昔、私にそのゲームを教えてくれた人が、そう言ったんです」
彼女の言葉に、レンの手元がまた狂う。
(――くそっ!)
集中力が途切れかけている。
冷静になれ、と自分に言い聞かせ、再度計算し直し、ボタンを押す。
(よし)
これで自分の思った通りにカードは並んだはずだった。
レンはデッキをシューに収め、全員分のアンティを受け取ると、カードを配った。
ディーラーズボタンはメガネの優男に移っている。
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