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レンは必死にポーカーフェイスを保ったが、その胸のうちは苛立ちでいっぱいだった。
いったい、この女は何を考えているんだ?
レンの思考をよそにベットは続く。
続いての美女はコール、そしてレイズ。
それも当然、美女の手札はあと1枚クラブのカードが来ればフラッシュの完成だった。
レンは、今回のゲームの勝者をこの美女に割り振っていた。
貴公子にはフルハウスを狙わせるが、完成はさせない。せいぜいレートを吊り上げさせながらゲームを長引かせ、二人のあいだのサインをより多く引き出させた上で、チップをむしり取らせてもらおうとレンは考えていた。
なにしろ美女は負け続きだ。
しかも彼女に劣らぬ無茶な賭け方や駆け引きの下手さで、無駄な出費が多すぎる。少しぐらい還元しなくては、イカサマ師に狙われてもいないのに自滅してしまうところだ。
もっとも、本人は全く気にする様子もないあたり、さすがは残念な美女といったところか。
レンは残念な美女がせっかくの好ハンドを無駄にしないことを祈りながら、貴公子の出方を注視した。
貴公子は当然、レイズをかけてくる――と思っていたが、彼は考え込んでいた。
(何を考え込む必要があるんだ?)
レンが疑問に思ったとき、貴公子の目が、レンに向けられた。
冷気さえおびているような、鋭い視線だった。
レンはその視線に捉えられ、一瞬、呼吸を忘れた。
(――読まれた!?)
直感的にそう思った。貴公子に警戒された。
貴公子がフォールドを宣言した。
「……やめましょう。やはりQがなければ勝てる気がしません」
ツーペアで、それもフルハウスが狙えるにも関わらず第1ラウンドで降りるなど、素人でもやらないだろう。
貴公子の行動に、ハンドの種類さえあやふやな彼女を除き、全員が呆れたような表情を見せた。
(彼女への僕の反応が、気づかれてしまったんだ……)
レンは悔やんだ。
彼女のコールに対して反応してしまった自分の、一瞬、ほんの一瞬の顔の筋肉の動き、目の動きを、貴公子に読み取られてしまった。
貴公子はその僅かな情報から、レンが彼女の手札を知っているのではないか、という疑いを抱いたのだろう。
その上で、狙いすましたかのような好カードが手中にある。レンが何かを仕掛けてきたと強く疑ってもおかしくなかった。
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