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メガネの優男のコールに続き、若い女までもフォールドした。
ハンドに関するサインの情報は、これで入手できなくなった。
カード交換を終え、第2ラウンドはメガネの優男がノーペアでフォールドし、彼女と美女でショウダウンとなった。
結果はレンの予定通り、美女がフラッシュで勝利。
だが、ほとんど無意味といっていいゲームだった。
リスク覚悟の神業に見合うだけの情報を集められなかったばかりか、守るべき彼女の金を失わせてしまった。
これでは完全に失敗だ。
だが、そもそも勝敗を度外視してこのテーブルに居続ける彼女を、イカサマ師から守れということ自体が無茶なのだ。
そんな彼女を守るには、やはりこのテーブルから去ってもらう以外にない。
しかし、どうやって?
損失を出してもこのテーブルに固執するというのなら、逆に利益を与えてやろう。
彼女の目の前をチップで溺れさせ、どうしても一度カウンターへ向かわざるを得ないようにするのだ。
レンは、メイコに向かって、自分の作戦をサインで送った。
メイコの返信は、了承だった。レンに割り当てられた損失額を超えていいという許可だった。
カジノに必要なのは一日の利益よりも、客の信頼だ。
客をイカサマ師から守るためなら、多少の損失もやむを得ない。
レンは、もういちど神業を使用することに決めた。
再度カードを並べて一瞬だけ裏返し、カードをまとめる。
貴公子がポツリとつぶやいた。
「悪い癖だ」
「ええ、自分でもそう思います」
レンはしれっと答えた。
普通ならこんな態度は、客を馬鹿にしていると捉えられてもおかしくない。
しかし相手は自らが「紫の貴公子」と呼ばれていることを承知で、それでもカジノに踏み込んでくるようなイカサマ師だった。
レンの見せた態度は、これ以上お前の好きにはさせないという、貴公子への警告でもあった。
「………」
貴公子はレンに向かって、何も言わなかった。
代わりに、彼女に向かって、こう言った。
「失礼ながら、お嬢さん。先ほどのゲームを、貴女はなぜフォールドしなかったのですか? まるで、フォールドしてしまえば、その時点でこのテーブルを去らなければならないとでも思っているようだ」
「………ええ、そうかもしれませんね」
彼女はかすかに笑って答え、そして、レンに目を向けた。
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