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電話と九官鳥
九官鳥を飼っている。
利口な奴で、特に教えなくても勝手に言葉を覚えるし、覚えた言葉をタイミングよく使い分けたりもする。
そいつと遊んでいる時、固定電話が鳴り響いた。
どうせまた…と思いながらも受話器を取ると、案の定、電話口からは何も聞こえてこない。
最近やたらと無言電話がかかってくるが、今回も例に洩れずだ。
そもそも、こういう真似をする連中は何を考えているのだろう。暇だとしても他にやれることはいくらでもあるだろうに、いやがらせを楽しむ人間の気持ちなどまったくもって理解できない。
いつもなら、苛立ちのままに電話を切るのだが、今日はとある考えが湧いた。
九官鳥に無言電話の相手をさせたらどうなるのだろう。
話しかけるといいタイミングで返事をするが、誰も何も言わなくても、うちの九官鳥は勝手に自分だけでぺちゃくちゃと話す性質だ。こいつを無言電話の相手に聞かせてやったら何か反応があるだろうか。
電話のスピーカー機能をオンにし、檻の前に電話を置くと、さっそく九官鳥があれこれと喋り出す。
暫く聞いていたが反応は皆無で、本当に、相手が何をしたいのか判らない。
人と九官鳥の声の区別もつかないのか。それとも、対話相手が九官鳥でも構わない心理状態なのか。
どちらにしてもそんな心理は理解できないし、付き合い続ける気も失せた。
だから私は九官鳥に電話を預ける形でその場を離れた。
九官鳥相手でいいのなら、好きなだけ無言を貫き通せばいい。切りたくなったらいつでもどうぞ。そして、これに懲りたらウチに電話をかけてくるな。
そんな気持ちでおよそ半日電話を放置した。
そのおかげか、翌日から無言電話はぱたりと止んだ。
だが、九官鳥の方に不可解な点が現れた。
電話対応をさせて以来、九官鳥が、外国の歌の歌詞のような言葉を喋り続けるようになったのだ。
それまてばずっと無言電話だったし、あの日も受話器の向こうから聞こえる音は何もなかった。それでも九官鳥は何かを覚えて、ずっとそれを口にし続けている。
その話を友達にしたところ、興味を持った一人が、聞いてみたいから、九官鳥が喋る言葉を録音してきてくれと言い出した。
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