電話と九官鳥

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 私としても、もし何か理由があるなら知りたかったので、すぐさま九官鳥の言葉を録音し、友達に渡すと、一週間程経ってから、難しい顔をした友達に九官鳥の語る言葉が何であったのかを教えられた。  機械好きな友達は、音声の速度を変えるなどの真似をいくつか試した結果、あの外国語の解読に成功したのだ。 『お前もこっちへ来い』  外国語の歌のようだと思っていた言葉は、ひたすらにこの一語の繰り返しだった。九官鳥が覚えた以上、どうやら電話口からは、ずっとこの一言が繰り返し繰り返し発せられていたらしい。  しかし私が受けた時、電話は確かに無言だった。  その旨を話すと、友達は、解読の際に施した機械処理の内容から、電話の向こうから語られていたのは、人間の可聴範囲では聞き取れない音声だったのではないかという推理を聞かせてくれた。  人には聞こえない波長の言葉を、九官鳥の耳はきちんと拾い上げ、聞いたままに口走っていたのではないかと言うのだ。  納得のいく発言に、私は深く感心しながら、同時に強い恐怖を感じていた。  人の耳には聞こえない言葉。もしもそれをずっと聞き続けていたら、私はいったいどうなっていたのだろう。  言葉や映像は、直接聞こえたり見えたりしなくても潜在意識に刷り込まれることがある。  もし私が、酔狂でずっと無言電話を聞き続けていたら、あの言葉私の意識に刷り込まれたのではないだろうか。そして、電話の相手が誘う『こっち』へ連れて行かれたのではないだろうか。  それを思うと、背筋がどうしようもなく冷たくなった。  さて、九官鳥だが、言葉話すが心底から意味を分かっている訳ではないらしく、あの不気味な言葉を聞き続けたにもかかわらずぴんぴんしている。  だが、一つ大きな問題ができた。 『お前もこっちへ来い』  特有の甲高い声音で発する不気味な声。すっかり覚えてしまい、これしかしゃべらなくなってしまった九官鳥。  別の言葉を教える気持ちは満々だが、暫くは、肝の冷えるような言葉を聞き続けなければいけない毎日だ。 電話と九官鳥…完
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