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口紅は買った日の夜にこっそりと塗ってみた。
少しだけ色づいた唇と甘い香りに思わず顔がニヤける。顔を左右に傾けて色んな角度から唇を眺めていた。
学校に口紅をして行くわけにはいかないが、何かあった時の為にといつも鞄の中に忍ばせていた。
波琉とは相変わらず仲良くしていたが、恋愛話をすることは無かった。
波琉の好きな人は気になっていたものの、それと引き替えに自分の好きな人を教えなくてはならないことの方が嫌だった。
あれから3か月がたった頃、口紅を使うチャンスは急にやってきた。
「美波今日一緒に遊ぼう」
いつものように波琉に誘われる。
「今日は拓くん達と早苗ちゃん達とカラオケに行こうって言ってたの」
「え…でも私が行っても良いの?」
少し声が震えた気がした。
「もちろんだよー。元から美波も人数に入ってたんだから」
いつものように嬉しそうに話す波琉にバレないように笑顔でうん!と返す。
放課後トイレに駆け込む。
鞄に忍ばせていた口紅を取り出し、鏡を見ながら丁寧に唇に塗った。
久しぶりに見る色づいた唇。
うっとりと顔が緩んだがハッと我にかえり、左手の甲で口紅を拭った。
ー何を期待してるんだろう。
手の甲で全て落ちきらなかった唇のまま波琉達の待つ廊下へ急いだ。
「遅いよー美波ちゃん!」
早苗ちゃんが言った。
そんな大きな声で言わなくても…と思ったが、ゴメンゴメンと笑いながら謝った。
拓くんと目が合う。
慌てて波琉を見ると波琉は驚いた顔で私を見ていた。
カラオケに着くと混んでいたせいか明らかに8人では狭い部屋に通される。
早苗ちゃんは杉山くんの隣をしっかりキープしている。
仲良しの有季ちゃんはそのサポート役かな?
波琉は大和くんに隣においでと言われ、拓くんの目の前の席に座った。
私は迷いながらも波琉の隣に座る。
「なんだよーそっちに女子固まってんじゃん!」
と拓くんが言ったものの私が動くことはなかった。
1時間程たつと早苗ちゃんは杉山くんに激しくアプローチを始めた。
ボディタッチはもちろんキスしてしまうのではないかと思うような距離でコソコソと話をしている。
波琉はというと大和くんの話に耳を傾けているものの、どこか上の空で全く私の方を見ないことが気になっていた。
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