第1章

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『パソコンの中はゴキブリの住処だ。』  そんな記事を今朝見付けた。2月のことだった。  それからというもの、この寒空の日本に、見えない恐怖が常に付きまとっている。それは、夏でもないのに怪談話をされた翌日の長距離勤務に似ている。  木材の運搬業務を続けて10年になる。曰くがあるパーキングエリア、切り出された植物の霊、祟り。同業者の交通事故現場。なにより、深夜間際の業務。百物語で語られる百話の中で、二割はそうであろうタクシードライバーの恐怖体験を語られた時には、車内ミラーが恐ろしくてトラウマになりかけた。 「おはようございます」  事務所に出勤する。事務所の中にはパソコンが3台ある。うち1台はウイルスにかかっていて使えない。ため息をついた。  あの時は熱帯夜なのに冷や汗が絶えなかった。  それなら、『怖い話』を聞かなければいいだろ。と人は言う。  だが、そういうわけにもいかなかった。『怖い話』を聞かされる原因、薄気味悪い思いをさせられている原因。全てはこの男、 「おはようさん」 「先輩、はやいっすね」  男はばさりと新聞を畳んだ。 「どっちだ?」 「透けている方です」 「俺か」 「課長はいつも早いっすよ」 「そうだな」  事務社員もバイトも出勤していないため、課長は自分で汲んだお茶を飲みながらテレビを見ていた。 その隣に、透けている、正しくは最近透けてしまった先輩が座っている。透けた先輩はソファーに胡坐をかいていた。 「お、尾賀。お前テレビ出てるぞ」 「まじっすか」  課長が事故のニュースに、先輩を見付けた。画面の中に、縦に長い丸写真で先輩の入社時の写真がある。 「俺、若い」  この前の自然災害で、業務中だった先輩は事故に巻き込まれた。独身で両親には早くに先立たれ、バツも無い尾賀先輩だったから、近しい親族と一緒に葬儀を上げた。それが1週間前のことだ。坊主の経に飽きた尾賀は、課長と同僚の間に座って百物語を延々と語っていた。親族である、尾賀の従弟や坊主には何も聞こえなかったらしい。課長と同僚は比較的平気な顔をして話に暇をつぶしていたが、足のしびれと物語るリアリティにすっかりトイレに行けなくなってしまった俺は、成仏もせずに幽霊となって透けた先輩のターゲットとなってしまった。  これが全てのはじまりだった。
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