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「行ったか……」
それは、本校に通う二年の男子生徒だった。
それなりに筋肉の付いた中肉中背の体格に、スラックスとカッターシャツという夏服の出で立ち。
以前に本棟の屋上で格好の昼寝場所を発見して以来、昼休みにはちょくちょく足を運んでいる彼の名前は須藤仁吉(すどうじんきち)。
周囲を田畑に囲まれた割と田舎の高校である、この通称『北高』で、特に何の問題も起こす事無く、また特別に勉強や部活動に力を入れている訳でもない彼は今、突然訪れた闖入者を無事にやり過ごし、同時にほっと胸を撫で下ろしたところだった。
……まぁ、別に彼女達に見つかったところでどうという事はないのだが…………。
それでも、図らずも女の子同士の会話を盗み聞きしてしまった事による罪悪感は存在するために、もしもバレた時の事を考えると、なんともいたたまれなくなってしまう。
「はぁ……」
仁吉がそっと小さくため息をついた瞬間、屋上の入り口付近に設置されている拡声器からひび割れた予鈴が流れ始めた。
チャイムを耳にした彼は、ふと、某伝説の傭兵じみたイタい動きで拡声器の周辺を確認した後、こそこそと北高本棟の屋上を後にしたのだった。
☆
「おう、おかえり」
「あぁ、ただいま。……いや、久しぶりにスリルのある昼休みだったわ」
屋上から教室に戻った俺は、自分の前の席で読書をしていた友人、坂本陽規(さかもとようき)に疲労の滲む笑顔で挨拶をすると、そのままべちゃりと自分の机に突っ伏した。
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