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あるビルの屋上の縁に男が立っていた。その男は今にも落ちてしまいそうな場所で、若干足元がふらついている。
男の名は、瀧澤富士男(たきざわふじお)、25歳。
富士男は大手商社に入社してまだ3年目だというにもかかわらず、先日いきなりリストラされた。
そして付き合って間もない彼女にも突然振られてしまった。住んでたアパートは放火され、全焼した。車も金も盗まれた。
何故こんなに不幸が続くんだ…………何で俺だけ……もう……死にたい……。
この日、富士男はやけ酒を煽りに一人で街に繰り出し、何軒もの飲み屋をはしごした。ひたすら飲んだくれた挙げ句、気付けば酔った勢いでここに立っていた。
「ああ、今思えば俺の人生そこそこ楽しかったよな」
眼下に輝く夜景を眺めながら、幼い頃から今に至るまでの自分の過去を振り返り、そう呟いた。
「さよなら父さん、母さん。今までありがとう…………なんちゃってね」
はぁ、俺には飛び降りる勇気は無いでごわす。
ため息をつき、縁から内側に降りようと振り返ったその時――激しい突風が吹き抜けた。
えっ?
富士男は人生を終わらせるその一歩を意図せず踏み出してしまった。
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